毎日を生きることは難しい。

両親の離婚に不登校。女性経験なしコミュ症。パワハラで退職。ちょっと鬱。ぐれずにここまでやってきた僕のゆったり日記。

ひんやり飯 ー小話ー

母ちゃんは、いつも帰りが遅い。夜ご飯を食べるときは当たり前、お風呂のときもいない、だいたいテレビを見ているか、ゲームボーイアドバンスをやってるときくらいに帰ってくる。スーパーのビニール袋を持って、よっこらせって。それを冷蔵庫にしまいながら、今日会ったことを話したりする。でも、そこで帰ってこないときは、とんでもなく遅い日。布団を引いて、おやすみなさいなんて言わないで、バサって布団に潜る。話したいことは明日にお預け。時間が経っちゃうと、つまらなくなるの、母ちゃんはわかってないな。

とんでもなく遅い日は、明日になってからドアのガチャガチャが聞こえる。外の真っ暗が部屋の中に潜んでて、ドアが開くと逃げ出して、代わりに街灯の明かりが入ってくる。角度が悪いと目に入ってくるから、ちょっと痛い。でも声に出さない。これは秘密なんだ。そんな時間まで起きていたら、母ちゃんに怒られちゃうから。

学校の友達は、お金がいっぱいあるんだなって思う。ゆうと君は僕より小さくて泣き虫なのに、プレステ4を持ってる。沢山カセットを持ってるのに、ゲームの本体にもダウンロードしたゲームが入ってるって言ってた。あと、おっきなサングラスをつけて、世界がゲームになってしまうドラえもんの道具も持ってた。だから、ゆうと君のお家に行くと、未来に来た気分になった。クラスのアイドルの朋ちゃんは沢山お洋服を持ってるって、友達のえみちゃんが言ってた。たしかに、僕なんかと違って、色んなお洋服を着てるし、とても綺麗に洗濯されてる。たまに麦わら帽子をかぶってて、お姫様みたいだって思ったこともある。

こないだ皆んなで遊んでたとき、ゆうと君が「家で何して遊んでるの」って僕に言った。ちょっと可愛か見える朋ちゃんにも「いつも1人で何して遊んでるの」って言われた。なんか、その言い方にムカッてしたけど、我慢して、考えた。それは、やっぱりトランプをしたり、あやとりをしたり、ゲームをしたり、テレビを見たり、本を読んだり、他にも色々。そんな風に答えたら、ゆうと君に「面白いの」って言われて、オシャレな朋ちゃんには「1人でできるの」って言われた。

母ちゃんは最近、朝も慌ただしくして、夜も明日になってから帰ってくる。だから今日も母ちゃんが出かけてから学校に行って、友達と遊んで、帰って、家で遊んでた。

ゲームボーイアドバンスカービィをやって飽きたから、地図帳を開いて、オーストラリアでっかいな、なんて国同士を比べていたら、鍵穴に鍵が刺さった音が聞こえた。夜ご飯を食べる前だったから、泥棒が来たんじゃないかって、凄くドキドキした。前に見たホラー映像を思い出してしまって、よけいに怖くなった。まだ夕方だったから、街灯は入ってこなくて、ゆっくりと開いたドアから、母ちゃんが部屋に入って来た。なんだ母ちゃんかと、胸を撫で下ろしてたら、あれってはてなマークが浮かんだ。

「母ちゃんね。クビになっちゃったんよ」

靴を脱ぎながら、ボソって呟いてた。とてもくたびれてて、でもいつもより元気そうな母ちゃんがビニール袋を上にあげて力こぶを作ってた。そういうことかって、勝手に納得して、ビニール袋を受け取った。大人の人って仕事してないと大変って、ゆうと君のママが言ってたけど、母ちゃんは大変になっちゃったのかな。考えてみたけど、よくわからないからいいやって、目につくゴミ箱に投げ捨ててやった。

「ご飯あるわよ。冷蔵庫の中に」

「食べる」

「作り置きだけどね」

「冷たくても美味しいよ、いつも食べてるし」

「言うようになったわね」

語尾を伸ばして、くしゃって母ちゃんは笑った。僕は冷蔵庫の中から、パックされた野菜をお皿に盛りつけた。母ちゃんはご飯をよそってくれた。椅子に座って、お茶碗を持とうとしたら「あんた、いただきますって言わないとダメよ」って怒られた。母ちゃんがいると、ちょっとうるさくて、自由じゃなくなる。

「いただきます」

さっきまで怒ってた顔してたのに、今はにっこり。「はい」って、なんだか満足そうにうなづいてた。大人っていっぱい顔の変身が出来るんだなって思った。

「結構、冷たいのね」

「うん、そうだよ」

今度は眉毛に力が入る顔になった。少し気になってる朋ちゃんがお泊まり遠足でお母さんに会えなくて泣いているときに、ちょっと似てた。それにしても、やっぱり冷たい。ハンバーグもおしんこも、野菜炒めも冷たいまま。給食より美味しくない。まぁ冷たいからだけど。だから、ご飯みたいに時間が経って、つまらなくなる前に、今日あったことをたくさん話そうとした。その拍子にご飯粒が口から飛び出したから「ちゃんと聞くから、急ぐんじゃないわよ。行儀が悪い」って怒られた。