毎日を生きることは、宙を歩くくらい難しい。

両親の離婚に不登校。女性経験なしコミュ症。パワハラで退職。ちょっと鬱。ぐれずにここまでやってきた僕のゆったり日記。ただ稀に薄暗い気分に身を委ね、目が覚めた僕には理解が出来ない文がある。

私の頭の中のカマボコ。

ぱっかーん。開いた頭の中には、カマボコがいました。外側はピンク色、内側は白。ツルツルテカテカ。質感が良くスーパーの店頭に並ぶことが許されるほどです。しかし、そんなことはさせません。いつかは有名なトナカイになりたいカマボコは、スウェーデンにある"サンタ協会学園"に留学へ行こうと決めていました。

そんな思いもつゆ知らず、私は頭に現れたカマボコを食べようと、手を伸ばしました。手袋がベタついてしまうと、妻に怒られてしまうのでしっかりと素手で掴みます。すると、1人の少女がこちらに駆け寄ってきました。

「冬休みだから、おばあちゃんにカマボコ買ってかなきゃ行けないの」

わさびと醤油を用意していた私は、不意を突かれ驚いてしまいました。

「なんだ、お嬢ちゃん。急にさ」

私が聞いていなかったと思ったのか、今度は簡潔に伝えようとしました。

「カマボコがおばあちゃんが必要なの」

「こっちにも都合があるんだよ。欲しいのなら、それ相応のさ……」

「交換するってこと?」

「そりゃそうだろう。ほいほいタダであげるほど、世の中はやさしくないんだから」

鼻息荒く、少し興奮気味の少女は右側のポケットから茶色の何かを取り出しました。

「メンチカツ……」

「脂が多いだろう。医者に止められていてね」

シマウマを思わせるほどの鼻息。少女の興奮はピークに達していました。。少女は左側のポケットにも手を突っ込み、取り出し、私に突き出します。その左手にはまだらの模様が浮かんでいました。

「マライヤキャリーの写真集……」

「いらないね。毛ほどにもお腹を満たしてはくれないから」

手がなくなってしまったのか、万策が尽きてしまったのか、スカートをぎゅっと握り、少女はとうとう泣き出してしまいました。

「ひっ…ひひ…ヒヒーン……ヒヒヒーン!」

そんな少女を横目に、私はカマボコを食べ始めました。淀む空にしゃんしゃんと音が降ります。サンタさんなのでは、一物の不安が頭をよぎりますが、頭は割れているので不安はそのまま通り過ぎました。そして空に広がる音も近づいて来たと思もえば、立ち止まるそぶりもなく離れていきました。

「ヒヒーン!ヒヒーン!ヒヒッ…ハリーヒヒーン!!」

少女はまだ泣いています。月の影にまん丸の雪だるまとトナカイが映し出されていました。やっぱり、サンタさんは来てたんだなと、爪楊枝で歯の隅をほじくりながら、お腹をさすります。私のお腹の中にはカマボコが、バラバラのカマボコがいました。